民事信託 

今後のご自身やご家族の財産管理上の問題に対し、民事信託を用いて備えてみませんか。

まず、信託とは何でしょうか。
信託とは、「信じて託す」ということで、自分の財産を信頼できる誰かに託すということです。

信託には、3人の登場人物があります。委託者、受託者、受益者です。

委託者とは、自己の所有する財産を託す人です。
受託者とは、委託者から財産を託されて、管理や処分等を行う人です。
受益者とは、財産の管理や処分により生じた利益を享受する人です。

委託者が、自分の所有している財産を受託者に託し、受託者がその財産を契約に従い管理・処分し、受益者がそこから得られる利益を享受します。

委託者が受託者との間で、これらの内容を契約をもって定めます。これを信託契約といいます。

※信託を利用するには契約能力が必要です。判断能力を有しない方については、成年後見制度を利用することになります。

そして、信託銀行などが受託者となり、業として財産管理を行う商事信託と異なり、委託者や受益者の家族等が受託者となって、財産管理を行うものを民事信託(家族信託)といいます。

信託活用の具体例を見てみましょう。

具体例

Aさん(70歳)は、アパート1棟を所有していました。老後の生活費のためと思い、退職金で建てたものでした。築8年で立地もよいため、今後も継続して賃料収入が期待できそうです。

Aさんはすこぶる健康で、また同居している息子夫婦(夫B男44歳、妻C子40歳)との仲もよく、何の問題もないように見えます。

ところが、そんなAさんに予期せぬ出来事が起こりました。朝起きてトイレに行ったところ、突然意識を失ってしまったのです。寒暖の差から引き起こされた脳血管障害でした。幸い、C子さんが倒れているAさんをすぐに発見したため、Aさんは一命を取り留めることができました。

大きな後遺症もなく退院できたAさんでしたが、「もし自分に万が一のことがあったらどうしようか」と、今後のことが心配になりました。特に、アパートの管理や処分のことです。
Aさんは、アパートの処遇について、いろいろと考えました。

「もし自分が認知症になって、賃貸の契約等ができなくなったら、どうなるのだろうか。」

「将来、アパートを売却して、自分が介護施設に入るときの資金にしたいと思っていたが、そのとき契約をする能力が無くなっているかもしれない。かといって、いまは売却したくない。」

「いっそのこと自分に管理や契約の能力がなくなる前に息子に贈与しようか。でも、いま贈与すると多額の贈与税がかかる。」

「・・・・・・・・」

財産がない人は無いことで悩みますが、財産を持っている人は持っていることで悩んでしまうものです。

このような事例で、効果的と思われるのが民事信託です。

信託による解決法

まず、Aさんが元気なうちに、Aさんを委託者兼受益者とし、息子のB男さんを受託者とする信託契約を締結します。

このときの信託財産はアパートで、信託の目的は、Aさんの財産管理上の負担軽減と生活の安定です。

この信託契約により、アパートは、受託者のB男さんに属する信託財産となります。

そうすることにより、受託者のB男さんがAさんに代わり契約当事者としてアパート関連の契約をしたり、時期がきたら売却等の処分行為を行えます。

たとえAさんの認知能力が低下しても、信託の目的から外れない限り、B男さんはそれらの行為を行うことができます。

そして、その利益は受益者であるAさんに帰属します。

※Aさんが元気なうちに、アパート経営をしたことがない会社員のB男さんにアパート経営のことを教える時間を持てるので、スムーズな資産承継が期待できます。

※信託契約の中で、万が一B男さんが先に死亡した場合を想定し、次の受託者としてC子さんを指定することも可能です。

※信託契約の中で、Aさんが死亡した場合に信託財産はB男さんに帰属すると定めておくこともできます。

この場合、遺産の分配方法を指定したことと同じになりますので、他に相続人がいる場合は、争いとならないよう、慎重に決定することが必要だと思われます。

※後見制度と異なって、裁判所の関与がないため、不正が行われる可能性が相対的に高くなります。信託契約の中で、信託監督人等を定めることにより、不正防止を図ることが必要と思われます。

必要な手続きや税金はどうなっているのでしょうか。

➀信託開始時、➁信託継続中、➂信託終了時にわけて、見てみたいと思います。

➀信託開始時
上記の事案では、アパートは信託財産として受託者B男さんに属するものとなりますが、利益を享受するのはAさんであるため、B男さんに不動産取得税や贈与税はかかりません。

また、受託者個人の財産と信託財産の分別管理義務の観点から、当該不動産につき信託の登記が必要とされており、登記には不動産の固定資産税評価額の0.3%の登録免許税がかかります。

➁信託継続中
アパートの賃料収入があった場合、受益者であるAさんに所得税がかかります。受託者のB男さんにはかかりません。

ただし、信託から生じる不動産所得にかかる損失があった場合、その損失は生じなかったものとされるため、翌年への繰り越しができなかったり、他の所得の黒字との通算ができません。

➂Aさんの死亡による信託終了時
信託の途中で、Aさんの死亡により信託が終了した場合はどうでしょうか。

信託契約の中で、Aさんの死亡により信託が終了した場合、アパートはB男さんの固有財産になると定めておいたとします。

これにより、アパートを取得したB男さんに相続税が課税される可能性がでてきます。

なお、信託の終了により、アパートは信託財産でなくなりB男さんの固有財産となりますので、その旨の登記と信託登記抹消の登記申請が必要となります。この場合の登録免許税は、不動産の固定資産税評価額の0.4%ほどの額となります。

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