事前通知と本人確認情報

売買を原因として不動産の所有権移転登記を申請するにあたり、売主は「登記済証」または「登記識別情報」を法務局に提供しなければなりません。

これらは、登記名義人本人しか所持していないのが通常であるため、法務局はそれらの提供を受けることにより処分権限を有する者からの登記申請であると確認し、処分権限を有さない者から申請された登記がされるのを防いでいるのです。

ところが、売主たる登記名義人が「登記済証」または「登記識別情報」を紛失していたり、もともとそれらが発行されていない場合があります。

そのような場合であっても、一定の手続をとることにより所有権移転登記が可能となります。

その手続きは、主として「事前通知制度」と「資格者代理人作成の本人確認情報の提供」の2種類があります。

■事前通知とは

「登記済証」または「登記識別情報」を提供しないで所有権移転登記の申請がされた場合、法務局は、登記名義人(売却する権限を有する者)の登記簿上の住所にあてて書面を郵送します。

「あなたによってこのような登記が申請されましたが、間違いありませんか。間違いなければ申し出てください。」という内容の書面です。

この通知を「事前通知」といいます。

この通知に対して一定期間内に登記名義人自らが申請したことに間違いない旨を法務局に申し出ることにより、所有権移転登記がなされます。逆に申出がなければ登記はされません。

こうすることによって、土地所有者になりすました者の申請による登記を防いでいるのです。

しかし、事前通知制度による所有権移転登記では、登記がされるか否かはひとえに売主の申出にかかってくるため、代金支払と登記申請の同時履行を原則とする不動産売買では不都合が生じます。

そこで、「資格者代理人による本人確認情報の提供」という方法が必要となってきます。

■本人確認情報とは

売主が「登記済証」または「登記識別情報」を提供できない場合に、司法書士等の資格者代理人が売主の本人確認を行い、登記名義人本人からの申請であることを証明する情報を提供して登記申請を行う場合があります。これを本人確認情報といいます。

資格者代理人から本人確認情報が提供された場合、登記官がその内容を相当と認める限りにおいて、事前通知がされることはなく、そのまま所有権移転登記が行われます。

同時履行を要求される不動産取引では、「登記済証」または「登記識別情報」を提供できない場合、この本人確認情報提供による方法は非常に有用だとお分かりになると思います。

しかし、一方で、この方法による場合、司法書士が本人確認を誤るとなりすましによる登記がなされるかもしれないというリスクを生じます。そのため本人確認情報の作成については司法書士に高度の注意義務が課されているのです。

ここは司法書士が専門家としての責任を最も問われるところであり、万が一のために当事務所でも賠償責任保険に加入しています。

LINEで送る

前の記事

宗教法人の役員変更